新しいビールの定義について解説していきたいと思います。
1. とりあえず条文を読んでみよう
ビール 次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたものロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)(酒税法第3条12号)
括弧が多くて分かりにくいですね。一つずつ解説していきたいと思います。
2. ビールのアルコール度数
まず、1行目でビールのアルコール度数を定義しています。
「次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう」
ここでいう「酒類」はアルコール1度以上という定義があるので、
ビールのアルコール度数は1度以上20度未満ですね。
3. ビールの原料
次に、条文の中の「イ」・「ロ」・「ハ」は全部ビールだよと言っています。
一つずつ見ていきましょう。
イ:「麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの」
これはいいですね。
混じりけのない、純なビールです。
ちなみに酵母は原料に含まれません。
酵母は発酵のために必要不可欠なのですが、最終的に加熱もしくはろ過されてしまうからです。
ロ:「麦芽、ホップ、水及びその他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの」
「ロ」で定義されるビールは「イ」で定義されたビールに、
発酵助成や品質調整を目的とした副原料を加えてもいいよという条文でしたが、改正により香りづけや味付けを目的とした副原料も認められるようになりました。さらに麦芽比率も引き下げされました。
詳しく見ていきます。
①副原料の割合が変わりました。
これまで、副原料はビールに使われる麦芽の重量の半分まで使えるという規定でした。
麦芽比率でいうと67%です。
麦芽重量:100キロ
副原料 :50キロ
100キロ(麦芽)÷150キロ(麦芽+副原料)×100≒67%
今回の改正では、麦芽の重量を超えない範囲まではOKになりました。
麦芽比率でいうと50%です。
麦芽重量:100キロ
副原料 :100キロ
100キロ(麦芽)÷200キロ(麦芽+副原料)×100=50%
②麦芽量の5%まで追加できる副原料が下記の通り定められました。
- 果実
- コリアンダーとその種
- こしょう、シナモン、クローブ、さんしょうその他の香辛料又はその原料
- カモミール、セージ、バジル、レモングラスその他のハーブ
- かんしよ、かぼちやその他の野菜
- そば又はごま
- 蜂蜜その他の含糖質物、食塩又はみそ
- 花又は茶、コーヒー、ココア若しくはこれらの調製品
- かき、こんぶ、わかめ又はかつお節
ハ:「イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの」
この条文は「イ」とか「ロ」のビールに、香りづけや味付けを目的とした副原料を入れてもいいよという条文です。
この条文は今回の改正で新しく追加された条文です。
追加できる副原料は「ロ」のビールに追加できる副原料と同じです。
図にするとこんな感じです。
これらの副原料は麦芽の重量のうち5%までいれてもOKです。
(※麦芽の重量が100キロだとしたら、副原料は5キロを超えてはいけない。)
ここで、条文をよく見てください。
イ「麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの」
ハ「イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの」
「イ」でホップが入っているのに、さらに「ハ」でホップの記載がありますね。
ホップが入っている「イ」のビールにさらにホップを入れるとはどういうことなのでしょうか。
条文の定義で「イ」は麦芽とホップと水を発酵させたものと言っていますね。
ということは、ホップは発酵前に入れるものといえるわけですが、
実は発酵後にホップを入れる手法もあります。
ホップを投下するタイミングによって苦味とか香りが変わってくるのです。
基本的なホップ投下のタイミングは、麦汁を煮沸するときです。
煮沸前に全量投下するか、煮沸中に分割投下するかに分かれます。
ホップは熱を加えることで苦み成分が出てくるので煮沸中にいれるのですね。
しかし、ホップの香りをより強調するための手法があります。
①煮沸終了直前もしくは終了後にいれる「レイトホッピング」
②麦汁冷却から発酵段階でホップをつけこむ「ディップホッピング」
③発酵終了後にいれる「ドライホッピング」
ということで「ハ」の条文をもう一度見てみましょう。
ハ「イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの」
ここでいう、ホップは発酵後に入れるホップを指しているのだと考えられます。
ホップ投入の詳しいタイミングについてはこちらの記事をどうぞ!
補足として、副原料についての以下のような疑問に答えてみたいと思います。
酒税法3条12号の条文を見ると、「麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽重量の百分の五を超えないもの限る」とあります。
麦芽比率50%以上ということは、残りの50%は副原料ですが、副原料は5%未満の条件があるいうことは、必然的に麦芽比率95%以上のビールしか存在しえないのではないでしょうか?
まず、ビールが定義されている酒税法第3条12号を改めて読んでみましょう。
十二 ビール 次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。
イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
条文には「副原料」という用語は一切出てこず、次のような文言になっていると思います。
「麦その他の政令で定める物品」(12号ロ)
「原料中政令で定める物品」(12号ロ)
「ホップ又は政令で定める物品」(12号ハ)
これらの文言が具体的に何を指すかは、政令(酒税法施行令第6条)を見ると書いてあります。
法第三条第十二号ロに規定する麦その他の政令で定める物品は、次の各号に掲げる物品とする。
一 麦、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、でん粉、糖類又は財務省令で定める苦味料若しくは着色料
二 果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む。)又はコリアンダーその他の財務省令で定める香味料
2 法第三条第十二号ロに規定するビールの原料中政令で定める物品及び同号ハに規定する政令で定める物品は、前項第二号に掲げる物品とする。
整理すると、
①「麦その他の政令で定める物品」(12号ロ)
②「原料中政令で定める物品」(12号ロ)
③「ホップ又は政令で定める物品」(12号ハ)
これを踏まえ条文を読んでみると、当初の副原料は麦芽重量の50%まで、追加の副原料は麦芽重量の5%まで認められます。
酒税法改正によって一般的に使われる「副原料」という言葉が複雑化しました。
改正前からの「副原料」なのか、改正によって「追加された副原料」なのかを混同してしまうのですね。
4. まとめ
ビールの勉強をしていると、いろんなことを学ばなければいけないことが分かります。
化学だったり、経営だったり、日本史・世界史だったり・・・。
今回は、条文の読み方という強敵と戦いました。
この記事では、ビールの定義改正について細かく紹介しましたが、平成29年改正の全体(主に~2026年にかけてのビール類税率変更)についてはこちらの記事をご覧ください。
ご意見・ご指摘等あればコメントいただければと思います。
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